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【5分対策⑦】詐欺における第三者|遡及効・復帰的物権変動【図解・法律解説】

今回は、96条3項の第三者の話を見ていきます。

96条3項の第三者…なぜ保護されるのか?

まず、96条3項の第三者の意義は、「詐欺の事実を知らずに、詐欺による法律行為に基づいて取得された権利関係について、新たな利害関係を有するに至った者」です。

例として、Aを騙してAの持つ土地を買ったBが、Cにその土地を売る場合を挙げます。

この場合、BがAを騙して買った土地が「詐欺による法律行為に基づいて取得された権利関係」になります。そしてその土地を買ったCは、「きちんとその土地を受け取れるか」、という利害関係を持つことになる訳です。

問題になるのは、第三者が利害関係に入る「時期」です。例えば、Bに騙されて土地を売る意思表示をしたAが、Bに対しその意思表示を取消する旨の意思表示をします。そうすると、本来であれば、Bのもとにある土地をAの元に返還する手続きを踏む必要が出てきますが、Aがそれを怠ったために、Bが土地をCに売ってしまいます。つまりCは、意思表示の取消が行われた後に利害関係に入ったことになる訳です。

このように、取消が行われた後に利害関係に入った第三者であれば、取消が行われたという事実を知っているのが普通です。そのため、このような第三者については保護を受けられないのではないか、という問題が生じるわけです。

取消の遡及効…取引の安全との関係

この問題を扱うには、そもそも「なぜ96条3項による第三者保護が認められるのか」という説明をしなければなりません。そして、そのためには「取消の遡及効」という概念を解説する必要があります。

取消をすると、その意思表示の効力は、意思表示をした時点にさかのぼって無効となります。これを「取消の遡及効」と言います。例えば、AがBに土地を売り渡し、BからCにその土地が売り渡されていったとして、その後CがDに土地を売り渡す前に、Aが意思表示を取消すとします。その際、遡及効がなければAからB、BからCに土地が移った事実は消えず、結局Aの元に土地が返ってくることはなくなってしまいます。このような働きをするのが遡及効です。

話をABCの三者に戻します。取消をして遡及効を発生させると、AからBに土地が移ったと言う事実はなかったことになり、Cに土地がわたることはなくなります。

反対に、94条2項や96条3項のように、第三者保護を図る規定が適用できる場合には、遡及効を制限して、取引の安全を保護し、Cにきちんと土地がわたることになる訳です。

96条3項の場合…遡及効の制限は不要

これらの話から、96条3項による第三者保護が認められる根拠は、取消の遡及効の制限して取引の安全を保護することに求められることになります。そのため、取消後に利害関係に入った第三者については、取消による影響を受けないことになるため、取消の遡及効を制限する必要性がなくなる訳です。よって、96条3項による保護を受けることはできないことになります。

しかし、取消後の第三者が一切保護されないとすると、Bが土地を持っていることを信頼した第三者の信頼を裏切ることになってしまいます。そのため、別の方法で第三者の保護を図る考え方があります。

復帰的物権変動…所有権が戻る動き

この話は、民法の総則だけでなく、物権の知識も必要になるため、以前解説した、登記と物権変動の話を先にみてもらったほうがよいと思います。

AがBに騙されて土地を売って、Aが意思表示の取り消しをしたあと、その土地の登記がBのもとに残っているのをいいことにその土地をCに売る事例で考えていきます。まず、Aが意思表示を取消したことで、BからAにその土地の所有権が戻っていく動きが発生すると考えます。これを「復帰的物権変動」と呼びます。


この物権変動が発生した後、BがCに土地を売る物権変動が発生するため、この2つの物権変動が二重譲渡の関係に立つと考え、177条の適用により登記の有無でAとCの所有権の決着を図る、という考え方です。この復帰的物権変動の理論は、取消ができる場合全てに関わるため、詐欺の場合だけでなく強迫や錯誤の取消後の第三者の場合にも当てはまることになります。

この議論については、学説からの批判もあります。特に大きいものとしては、強迫との関連です。条文上、強迫による意思表示の場合は、取消前に利害関係に入った第三者の保護は図られません。しかし、この復帰的物権変動が発生することで、取消後の第三者であれば全て対抗問題として処理されることになります。そうすると、強迫の事実について善意だと保護されないのに、悪意でも登記さえ備えていれば保護されるという不都合が生じてしまうことになる訳です。

まとめ & スズトリYouTube版

今回は、96条3項の第三者についてと、取消の遡及効の話をしました。次回は、代理に関する話を見ていきたいと思います。YouTube版もあるのでどうぞ↓