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【5分対策②】民法の考え方と原則|取引の安全・静的安全・私的自治・権利濫用

今回は、民法特有の「ものの考え方」と、民法の原則についてみていきます。

民法でやること…ポイントは「取引の安全」の考え方

まず、民法の学習においてどのようなことをやるのかを見ていきます。

前回、法学においては、事例の中に出てくる法的な問題を解決するのが目的だと説明しましたが、民法においてもそれは同じです。大学においては、財産法を中心に学んでいくわけなので、与えられる事例でも、財産にまつわる争いがおきます。そして、問題を解く側は、争っている当事者のうち「どちらを勝たせるか」を、条文や法理論を使って判断していくわけです。このような「対立利益の勝敗を決する作業」をするのが、民法です。
そしてその作業において決め手となる考え方が、取引の安全という考え方です。

取引の安全(動的安全)…対立概念は「真の権利者の保護(静的安全)」

取引の安全とは、取引が行われた、という事実を保護する考え方で、動的安全ともいわれるものです。対立する概念が、真の権利者の保護、もしくは静的安全で、真に権利を持っている人を保護する考え方です。

具体例で見ていきましょう。AさんがBさんに、自分が持っていた物を売却しました。ところが、Cさんは、「その物は私がAさんに貸していたもので、所有権を持っているのは私だ」と主張し、Bさんにその物を返還するように請求します。このような場合、BさんCさんどちらに物の所有権を帰属させるべきなのでしょうか。

取引の安全を重視すると、「取引が行われた」という事実を保護することになるため、Cさんが真に所有者であったとしても、売買により所有権を獲得したBさんにその物が帰属することになります。

逆に、真の権利者保護を図ると、AさんとBさんとの間で行われた取引はなかったことになり、Cさんに物の所有権が帰属します。

動的安全・静的安全のどちらを重視するかは、事例によりけりで、どのような条文・法理論が適用できるのかによって異なります。「Cさんが悪い」と言える事情があれば動的安全を保護し、「Bさんが悪い」と言える事情があれば静的安全を保護することになります。事例の中からどちらを勝たせるかの判断の材料となる事実を抜き出して、条文を適用し、両者の決着をつけていくわけです。

民法の原則…私的自治・信義信条の原則

ここまで民法特有のものの考え方についてみてきましたが、次に民法における重要な原則についてみていきます。

まずは、私的自治の原則です。これは、私たち私人が義務を負うのは、自らの意思でそれを望んだ時だけだとする原則です。財産を奪われたり、義務を課されたりするのは、自分がそうなるよう望んだからであり、そうではない場合に強制的に義務を負うことはないということです。私的自治の原則の内容の一つとして、契約自由の原則があげられます。どのような義務を課すかというのは自由であるため、どのような契約を結ぼうがその人の勝手だという訳です。

次に、信義誠実の原則です。これは、「信義則」とも呼ばれるもので、民法1条2項に規定されています。信義則は、具体的な状況において相手に期待される信頼を裏切ることのないように、誠意をもって行動すべきとする原則です。難しいことを言っていますが、要するにやらなきゃいけないことは必ずやる、嘘はついてはいけない、というような極めて一般的なことについて規定したものです。

一般的な規定であることから、法に制定されていない部分を補充し、その不都合を調整する役割をしています。つまり、適用できる条文がないときの受け皿となっているわけですが、あくまで最終手段として使うべきとされています。条文にないからと言って何でもかんでも信義則で解決するのは控えた方がいいでしょう。

権利濫用の禁止…宇奈月温泉事件を例に、正当な権利とは?

最後に、権利濫用の禁止です。これは、一見正当な権利を主張しているように見えても、実態を見ると明らかにその権利の枠を超えており、その権利に基づく主張は認められない、とする法理を指します。民法1条3項に規定がありますが、これを初めて用いた有名な判例が宇奈月温泉事件、という事例です。

富山県にある鉄道会社が経営する宇奈月温泉という温泉が、7.5キロほど離れた場所にある源泉から引湯管を通してお湯を引いていました。会社側は当然、その引湯管を設置する許可はとっていたわけですが、その途中にあるX所有の土地の一部を不法占拠してしまっていました。そのためXは会社に対し、引湯管の撤去か、土地を買い取るか選ぶよう請求しました。

確かにXは土地の所有者であり、その土地の上に無許可に管を設置したのは会社側に落ち度があります。しかし、不法に占拠したといっても、112坪のうちたった2坪で、Xも土地をまったく使っていませんでした。そのうえ土地を買い取るための代金としてXが提示したのが、時価の23倍という法外な値段であったことから、権利の乱用に当たるとしてXの請求は認められなかったというわけです。

まとめ & スズトリYouTube版

今回は民法を学ぶ前提として必要な考え方と、民法における原則についてみてきました。YouTube版もどうぞ↓