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【図解】ブルドーザー事件|不当利得に関する法律をわかりやすく【法律解説】

今回は、民法の不当利得に関する判例であるブルドーザー事件についてみていきます。まずは、事件の紹介の前に、今回の事件に関わる法律、不当利得に関する規定を見ていきましょう。


不当利得とは

民法では、所有権絶対の原則により個人の財産が保護される結果、基本的に自分の物を他人に渡す必要はありません。

そのため、人が物や金を渡す義務を負うのは、財産の持ち主が自らの意思でそう望んだ場合や、法律によって定められた場合のみです。民法上では、個人間の契約や、債務不履行による損害賠償、不法行為による損害賠償などの規定により債務が発生します。債務が発生した以上、その相手方である債権者は、当然に支払われたお金を受領することができます。

しかし場合によっては、何ら法律上の原因なしにお金を受け取り、利益を得ることもあります。そのような場合、利益を得た者は、その利益を返還する義務を負います。これが、不当利得の返還義務です。

不当利得返還義務の要件

不当利得の返還義務は、703条に規定されています。

それによると、①他人の財産又は労務により利益を受けたこと。②他人に損失を与えたこと。③受益と損失の間に因果関係があること。④法律上の原因がないこと、の4つが成立要件となっています。

誰かの損失によって利益を受け、その利益に法律上の原因がない場合には、当事者の公平の観点から、利益を返還する義務を負う訳です。

ブルドーザー事件(最判昭和45年7月16日民集第24巻7号909頁)

これらの要件に絡んだ判例の一つが、ブルドーザー事件です。

建設機械の修理業者であるXは、建物の建設事業を営む会社Mから依頼を受け、ブルドーザーを修理し、修理代金債権をMに対し取得します。このブルドーザーは、Mが所有者のYから賃借していたものでした。ところがその債権の弁済を受ける前に、Mが倒産してしまいます。そこでXは、Yに対し、修理代金の分の不当利得の返還請求を行ったわけです。

この判決で、最高裁は、①②④については問題なく認めています。①は、Xの行った修理という「労務」で、②は、Yの得た「修理代金を支払わなくてよい利益」ということになります。主に争われたのは、③の因果関係についてです。

転用物訴権

この事件において問題となるのは、修理を依頼したのはあくまでMだという事実です。

そのため、Xの損失とYの利得との間に直接の因果関係を認めることが難しい訳です。これによりXは原則として、あくまでMのみに対して修理代金を請求でき、Yに対し不当利得の返還を請求できないことになります。

しかし、この事件において最高裁が重視したのは、Mが倒産し、代金の支払いをする資力がないと言う事情でした。この事情があるにもかかわらずYに対する請求を認めないとすると、当事者の公平が損なわれてしまいます。そこで、修理費用につき無資力となった場合、その限りで損失と利得の間に因果関係が認められ、不当利得の返還請求ができるとされました。これを、転用物訴権と言います。

別の事例の場合(最判平成7年9月19日民集第49巻8号2805頁)

転用物訴権については、これとは別の判例もあります。

建物の改修工事事業を営む甲は、乙から建物の改修工事の依頼を受けます。乙が依頼した建物は、丙から賃借したものでした。そして改修工事を完了した甲は、建物を引き渡し、乙に対し代金を請求します。

しかし、その間に乙と丙の間の賃貸借契約は解除され、乙は所在不明となっていました。そこで甲は、丙に対し改修代金の不当利得返還請求をしました。この事件においては、甲の改修工事という労務(①)、丙の改修費用分の利益(②)、およびそれらの間の因果関係(③)については認められました。

先程の事例では、因果関係の問題において転用物訴権を用いましたが、この事例では④法律上の原因があるか否かの問題として論じられました。これと同時に最高裁は、「法律上の原因なしに利益を受けた」と言えるには、丙と乙の賃貸借契約を全体として見て、丙が対価関係なしに利益を受けたと言える必要があるとしました。

なぜなら、因果関係があったとしても、利益を得る前に何らかの負担をしていた場合、さらに不当利得を認めると、二重の負担を強いることになるためです。

この事件においては、乙が丙と賃貸借契約を締結する際、乙が建物の権利金を支払わない代わりに、建物の改修費用を乙の負担とするという旨の特約が交わされていた事実がありました。
この特約があったことから、丙は「権利金を受け取れない」という負担のもとに、改修費用分の利益を得ていたとされ、法律上の原因があり、甲の不当利得返還請求は認められなかったわけです。

実はブルドーザー事件においても、ブルドーザーの修理代金をMの負担とするという特約がありました。
しかしその特約につき、Yは何らの負担も負わなかったために、不当利得の返還義務が認められたわけです。

まとめ & スズトリYouTube版

今回は、不当利得やブルドーザー事件についてみてきました。YouTube版もあるのでどうぞ↓