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【法律解説】真犯人不明でも、有罪ってアリ?「大阪南港事件」

昭和56年1月15日。時刻は午後8時ごろ。三重県のとある飯場にて事件は起こりました。通称、「大阪南港事件」。被告人Xは、被害者Vの頭部を、意識不明になるまで複数回、革バンドなどを用いて叩き続けました。その後、被告人Xは、Vを車に乗せ、大阪市の建設会社の資材置き場まで移動し、Vをそこに放置して帰ります。Vは暴行による脳出血で死亡しました。

しかし。捜査が進むと、Vが死に至るまでに、正体不明の人物がさらなる暴行を加えたことが判明します。これが原因で、裁判所は従来と違った判断を下すことになりました。

こんにちは、ミノです。皆さんは、誰かを殴り殺したくなったことはありますか。私はもちろんありません。

人を殴り殺してしまったら、殺人罪などで処罰されるのが普通です。罪を犯した人がその罰を受けるのは当然ですよね。しかし、日本で実際に起きた事件で、本当にその人が殺したのかがわからないのに殺人罪が成立した事件があります。今回は、大阪南港事件についてみていきたいと思います。

大阪南港事件とは…真犯人不明の事件

昭和56年1月15日午後8時ごろ、被告人Xは、自分の経営する飯場において、革バンド等を用いて被害者Vの頭部を複数回にわたって叩くなどの暴行を加えました。その結果同人は意識不明に陥いったため、Vを車に乗せ大阪市の建設会社の資材置き場まで移動し、Vをそこに放置して帰りました。その後、VはXの暴行による脳出血で死亡してしまいます。これだけであれば殺人罪の成立に何の問題もありません。

ところが実際には、Vが死亡するまでに、何者かがVに新たな暴行を加え、Vのけがを悪化させていたことがわかりました。この何者かというのが正体不明で、被告人Xであった可能性もあったし、別の第三者であった可能性もあったということです。

因果関係とは…犯罪が成立するための条件の1つ。条件関係

何が問題となったか紹介する前に、因果関係というものについて説明しておきます。

まず犯罪が成立するためには、いくつか条件がありますが、そのうちの一つに因果関係というものがあります。因果関係とはある二つ以上のものの間に存在する、原因と結果の関係のことを言います。刑法においては、犯罪行為者の行為が、本当に被害者の死亡等の結果につながったかを示す働きをします。Aさんが犯罪行為をしても、「確かにAさんの行為によって結果が発生した」と言えなければ、「もしかしたらBさんの行為によって結果が発生していたのかもしれない」という反論が可能になってしまい、Aさんの処罰ができないということです。

刑法上の因果関係が認められるためには、まず条件関係というものが存在する必要があります。条件関係とは、あれなければこれなし、という関係があることを言います。少なくとも、この行為がなかったなら結果が発生することもなかった、と言う緩い基準が必要となるということです。

しかしこの関係だけで因果関係を認めてしまうと、「風が吹けば桶屋が儲かる」という言葉のように、偶然発生してしまった結果についてまで犯罪行為者へ帰責させることになってしまうため、別の基準が必要になります。そのため、「当該行為から結果が発生することが社会生活上相当である」と言える必要があると考えます。

このように考える説を、相当因果関係説、と呼びます。これについては、さらに詳細な議論がありますが、ここでは省きたいと思います。

問題点…条件関係はクリア。しかし…

これを踏まえて、先に紹介した事件について見ていきましょう。

確かにXがVに対し、暴行及び運搬・放置をしなければ、Vが脳出血して死亡することはなかったと言え、条件関係はあると言えます。しかし、何者かによる暴行が加えられた可能性がある以上、その者の行為により結果が発生していた可能性があるため、Xの行為により結果が発生していたことが社会生活上相当であるとは言い切れないのではないかと争われました。

この点について最高裁は、Xによる暴行がVの死亡結果を引き起こすのに十分な暴行であったことを重視し、「仮にその後第三者により加えられた暴行によって死期が早められたとしても、犯人の暴行と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができ」るとして、殺人罪の成立を認めました。

行為後の介在事情…相当因果関係説では考慮できなかった事情

この事件は、「行為後の介在事情」という問題の先駆けとなった事件です。

まず、先ほど紹介した、相当因果関係説では、行為者の行為が行われた後の事情については、考慮することができないとされていました。なぜならこの説は、行為者やそれ以外の一般人が、その行為時に認識できた様々な事情を考慮して、総合的な観点から因果関係の存否を判断する説であり、行為後の事情については射程圏外であるためです。そのため、最高裁はXによる暴行が結果を引き起こしうるものであり、何者かによる暴行が加えられたとしても死因を早めたに過ぎないという点を重視して、行為後の事情は関係なしに因果関係を認めたという訳です。この事件がきっかけとなり、行為後の事情について考慮することができる学説が発展していきました。

まとめ & スズトリYouTube版

今回は、大阪南港事件をきっかけに、因果関係について見てきました。特に、行為後の介在事情という問題は、因果関係についての重要な議論となっています。刑法上の因果関係が果たす役割について、少しでも理解してもらえれば幸いです。