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【法律解説】宅配(デリバリー)配達員が事故!当て逃げ!→トラブルの責任は問える?使用者責任とは

皆さんは普段、出前を取りますか。最近街を歩くと、大きなバッグを抱えた若者が自転車で出前を届けているのを目にするようになりました。ただ、そのような人たちが交通ルールを守っておらず、危険な目にあうという事も少なくありませんね。今回は、そんな出前サービスに関する話です。

こんにちは、ミノです。皆さんは、自転車で事故をおこしたことがありますか。私は何回か轢かれかけました。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で、家にいる時間が長くなったのは記憶に新しいと思います。その影響で出前に対する需要が激増し、とある宅配サービスが大流行します。このサービスは、個人が事業主となって料理を配達し、配達した分だけお金がもらえる、というものです。配達をするだけでお金がもらえるということもあり、大きいバッグを背負った若者が、こぞって自転車で配達をするようになりました。

それまではお店に直接電話し出前を頼んでいたのが、アプリ一つで完結するようになり、出前の利便性がかなり向上したのは事実です。しかし、このサービスにより、とある問題が浮き彫りとなってしまいます。不法行為に関する問題です。

一般不法行為…709条の損害を賠償する責任

例えば、Aさんが駅まで自転車で移動している際に、道路を歩いていたBさんとの接触事故を起こしてしまったとします。この事故は、Aさんが道路を逆走していたことが原因でおきたもので、巻き込まれたBさんに、全治3か月のけがをさせてしまったものとします。このような場合、AさんはBさんの治療費や慰謝料などを支払わなければなりませんが、
これは民法709条の規定に基づきます。

709条は、不法行為についての規定です。


故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」という規定です。

要するに、「わざと」もしくは「誤って」、悪いことをして他人に損害を与えた者は、その損害を賠償しなければならない、という訳です。この賠償責任を、不法行為責任といいますが、709条の不法行為責任は、不法行為をした本人のみに発生します。そのため709条は一般不法行為、という呼ばれ方をします。

特殊の不法行為…715条の使用者責任について

「一般」があれば「特殊」もあるわけで、714条以下は、特殊の不法行為に関する規定です。


これは不法行為者本人ではなく、それ以外の者にも責任が課せられる場合で、714条の責任無能力者の監督義務者の責任、715条の使用者責任、717条の土地工作物責任、718条の動物占有者責任、719条の共同不法行為、があります。特殊の不法行為は、直接不法行為をしたわけではない者に発生する責任であるため、他人の責任に従属する、従属責任という呼ばれ方や、過失がなくても発生する、無過失責任という呼ばれ方もします。ここでは、715条の使用者責任についてみていきます。

使用者責任…715条

715条は、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と規定します。

要は、雇われる側の不法行為の責任を、雇う側が負う、ということです。他人を使用することで利益を得ているのだから、それによって生じる損害も負担すべき、という報償責任の原理から認められた規定だとされています。

ここでようやく出前の話に戻ります。先ほど出てきた例で、逆走によりBさんを轢いてしまったAさんが、この出前のサービスの登録者で、出前を届ける最中であったとします。この場合に、出前のサービスを提供するX社は、Aさんが起こした事故の責任を負うことになるのでしょうか。

指揮監督関係…実質的な指揮監督関係が必要とされる

まず事故を起こした本人であるAさんは、709条により損害賠償責任を負います。であれば、Aさんを出前に行かせたX社も、715条により使用者責任を負うのが当然であるように思えます。ところがX社は、この条文の適用はなされないと主張しているのです。

そもそも使用者責任が認められるためには、使用者と被用者の間に、雇用関係などの「実質的な指揮監督関係」が必要だとされています。

しかしX社が言うには、Aさんはあくまで、X社の提供するサービスのもとで、自ら出前の事業を行う個人事業主として活動しているにすぎず、AさんとX社の間には、何らの指揮監督関係も存在しないことになるのです。

この言い分が通ると、X社はなんの責任も負わないことになります。そうなると、個人事業主である利用者が賠償額を用意できないときは、被害者が賠償を受けられないことになってしまう恐れがあります。既に大規模な事業を展開しているのに、そこから生じる損害を一切負担しない、というのは企業としていかがなものなのでしょうか。皆さんはどう思いますか。

今回は、出前サービスの事例を通して、不法行為について見てきました。X社に使用者責任が認められるかどうかは、今後の法律の解釈に大きな影響を及ぼす判決になると思います。皆さんも注目してみてはどうでしょうか。