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【5分対策③】責任主義・心神喪失と心神耗弱|刑法をわかりやすく解説【図解】

今回は、原因において自由な行為についてみていきます。

責任主義と責任能力

犯罪が成立するためには、その犯罪行為者に「責任能力」が存在することが必要です。刑法において「責任がある」とは、違法な行為をしたことについて、その行為者を「非難できること」を言います。「行為者が悪い」と言えるからこそ、犯した犯罪について責任を負い、責任があるからこそ、その犯罪行為について非難ができる、すなわち刑罰を科すことができるわけです。

責任を負うことができる能力を責任能力といい、責任があって初めて非難ができるとする原則を、責任主義と言います。そして責任能力は、犯罪行為の時点で持ち合わせていることが必要となっています。これを、「行為と責任の同時存在の原則」と言います。

責任能力の具体的な内容は、①、事物の是非善悪を弁識する能力(是非弁識能力)と、②、弁識した内容に従って自分の行動を制御する能力(行動制御能力)の2つからなります。責任能力は一般人であれば当然に持ち合わせるものとされています。責任能力が欠けているとされるのは限られていて、ⅰ、心神喪失及び心神耗弱、ⅱ、刑事未成年、の2つの場合のみです。

②の刑事未成年は、14歳未満の者のことです。(41条)これらの者に責任能力を認めないのは、①か②が欠けていることがあるのはもちろん、かけていなかったとしても、刑事政策上処罰するのが適当でないとされているためです。

心神喪失と心神耗弱

心神喪失と心神耗弱は、39条に規定されています。心神喪失とは、精神の障害により、①か②のどちらかが欠けているか、どちらもまったくないことを言います。

対して心神耗弱は、①か②が著しく減退した状態のことを言います。精神の障害には、統合失調症などの精神病のほか、アルコールの摂取による酩酊状態も含まれます。

心神喪失状態の者の犯罪行為は、罰せられません。対して、心神耗弱状態の者の犯罪行為は、必ず減軽されます。前者を必要的免除、後者を必要的減軽と言います。

問題点

先ほど、酩酊状態も精神の障害に含まれると言う話をしました。そのため、重度の酩酊状態にある場合、責任能力が欠けている判断されることが多い訳です。しかし、次のような事例ではどうでしょう。

甲は、10年前にVから借金をしており、毎日のように催促の電話がかかってきていたため、Vのことを殺して、借金をチャラにしようと考えていました。しかしなかなか踏ん切りがつかなかったため、酒を飲んで酔っ払うことで勢いのままに殺してしまおうと考え、重度の酩酊状態になり、ナイフで刺すことでVを殺害しました。この場合の甲は、Vを殺そうと思って酒を飲み、現実に殺しているため、犯罪を成立させるべきだと思う人が大半だと思います。しかし、Vを殺した時点では酩酊状態にあったため、責任能力が欠けており、行為と責任の同時存在の原則をみたさず、犯罪を成立させることができません。

そこで、「原因において自由な行為」の理論により、この原則をクリアしようという訳です。

原因において自由な行為

これは、結果を発生させた行為(結果行為)に責任能力がないとしても、その原因となった行為(原因行為)の時点においては責任能力があることから、行為者の処罰ができる、とする理論のことです。先ほどの例で言うと、酒を飲んだ行為が原因行為、ナイフで刺す行為が結果行為という訳です。

この理論と同時存在の原則との関係をどのように説明するかは説が分かれていますが、有力説は、責任能力が存する時点でなされた「Vを殺す」という意思決定が、そのまま結果行為に現れていることから、二つの行為を一連の行為とみる、と説明します。これにより、結果行為の時点で責任能力がなくても、原因行為時に責任能力があれば、全行為について責任を問えるわけです。あくまでも意思決定がそのまま結果行為に現れていることが必要であるため、Vを殺すつもりで酒を飲んだものの、酔った結果別人から財布を盗んだ、というような場合には、原則通り責任を問うことはできません。

まとめ & スズトリYouTube版

今回は、責任主義と原因において自由な行為についてみてきました。YouTube版もあるのでどうぞ↓