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【5分刑法#06】未遂犯・中止犯・不能犯|実行の着手・具体的危険説|刑法をわかりやすく解説【図解】

こんにちは、ミノです。今回の動画では、未遂犯・中止犯・不能犯についてみていきます。


未遂犯とは

犯罪を実行する者は、その犯罪を最後までやり遂げようとするのが普通です。


犯罪を最後までやり遂げて、人が死亡するなどの結果が発生することを、「既遂」に達すると言います。それに対して「未遂」は、何らかの事情で最後までやり遂げられない場合です。犯罪行為は、既遂に達して結果が発生しているからこそ処罰されます。そのため原則として未遂犯は処罰の対象にならないことになります。

しかし、例えばAを殺そうとしてナイフで刺したものの、一命を取り留めたような場合に傷害罪しか成立させられないとすると、不当に刑が軽くなり、妥当ではありません。そのため、重大な犯罪についてはほとんどの場合に未遂の規定が置かれています。

実行の着手

未遂となるためには、犯罪行為をしたのに結果が発生しなかったことが必要です。

すなわち要件としては、①犯罪をやり始めたこと、②結果が発生しなかったこと、の2つになります。

①を刑法では、「犯罪の『実行の着手』があること」という表現をします。実行の着手が認められるには、犯罪行為の一部を開始することが必要です。例えば、殺人罪において人をナイフで刺す行為や、強盗罪において人に暴行・脅迫を加える行為です。

そして、犯罪行為の一部の開始があると認められるためには、犯罪結果が発生する「現実的危険性」を有する行為が行われている必要があります。

判例では、人を失神させて殺害しようとしていた事件で、失神させた時点で現実的危険性があるとされた例。店舗に侵入して窃盗を行った事件で、侵入した部屋に盗めそうな家電はあったものの、現金が欲しかったためにレジに向かおうとした時点で現実的危険性があるとされた例などがあります。

このことから、現実的危険性の有無の判断においては、外部的な事情のほか、行為者の故意や犯罪計画などの事情を総合的に考慮する必要があるといえます。

結果の不発生

ただ結果が発生しなかったといっても、その原因には様々なものがあります。例えば、相手にナイフを刺して逃げたものの、その相手がたまたま通りすがった人に車で病院に連れていかれて助かった場合や、ナイフで刺したものの、出血を見て反省し、自ら救命行為を行って助ける場合などです。

このように、外部的な事情により結果が発生しない場合を障害未遂、自らの意思で犯罪を中止する場合を中止未遂といいます。すなわち、「やろうと思えばやれた」場合が中止未遂、「やりたかったけどできなかった」場合が障害未遂、という訳です。これをフランクの公式と言います。

また、強盗罪を実行しようとして、暴行・脅迫をしたものの、財産の奪取ができなかった場合など、犯罪行為の全部の実行ができず未遂に終わる場合もあります。このように、実行に着手したものの、犯罪行為の全部を成し遂げられなかった場合を着手未遂、犯罪行為は全部終わったものの結果が発生しない場合を実行未遂と言います。

未遂犯が成立すると、任意的に、刑が減軽されます(任意的減軽)。(43条)

中止犯

先程の中止未遂は、中止犯という言い方もします。

中止未遂を中止犯という場合には、障害未遂は(狭義の)未遂犯と呼びます。中止犯は、43条但し書きに規定されていて、その要件としては、①自己の意思により(任意性)、②犯罪を中止したこと(中止行為)、の2つがあげられます。

①「自己の意思により」と言えるためには、判例上「悔悟」や「憐憫」の情が必要であるとされています。
悔悟は、過ちを悔いること、憐憫は、相手をあわれむことを言います。例えば、ナイフで人を刺したものの、大量に出血したことから、「なんてことをしてしまったんだ」というような思いを抱いて中止行為をした場合です。

単に出血に「恐怖」したり、「驚愕」したりして中止行為をしても、自己の意思により行われたとは言えず、障害未遂すなわち(狭義の)未遂犯として扱われます。

そして、中止行為があると言えるには、(a)結果発生の阻止のため真摯な努力をしたこと、(b)結果が発生しなかったこと、の2つが必要となります。真摯な努力をしたと言える場合は、判例上、ナイフで人を刺したことを後悔し、自ら救急車を呼んで、自分が刺したことを正直に告げて治療に協力する、というような場合です。

単に「放火をしたからあとは任せた」と言って逃げたり、被害者を病院に連れて行ったものの、自分で刺したことは隠したような場合には、真摯な努力が認められません。中止犯が成立すると、必ずその刑は減軽又は免除されます(必要的減免)。

不能犯

結果が発生しなかった場合全てが未遂となるかというとそうではありません。

犯罪行為の性質上、そもそも結果が発生する危険性が極めて低いために結果が発生しない場合もあります。
このような犯罪を、不能犯と言います。不能犯の例としては、藁人形で人を呪い殺そうとする場合です。行為者本人としては殺意を持って犯罪行為をしているつもりでも、客観的にみると結果が発生することはあり得ないわけです。そのため、未遂犯にすらあたりません。不能犯にあたる場合、その行為は罰せられないことになります。

しかし例えば、Aを殺そうと思って銃の引き金を引いたものの、弾丸が入っていないような場合、「たまたま弾丸が入っていなかった」という事情だけで不能犯になるとするのは妥当ではありません。

そのため、一般人が、当該行為から結果が発生する具体的危険性を認識できる場合には、実行の着手があるとして、未遂犯として処罰できる、と説明します。この事例の場合、たとえ弾丸が入っていないとしても、人に向けて銃を撃つという行為について、一般人は危険だと認識できるため、未遂犯となる訳です。

不能犯となる例としては、遺体安置所にあった遺体を、まだ生きていると思って切りかかった場合などです。
この場合一般人は、遺体安置所にあれば当然死んでいると認識するため、不能犯となる訳です。なおこの事例の場合、別途死体損壊罪(190条)が成立します。

まとめ & スズトリYouTube版

今回は、未遂犯・中止犯・不能犯についてみてきました。YouTube版もあるのでどうぞ↓